歌川廣重 名所江戸百景 [Android]

「名所江戸百景」について
（取り返しのつかない悲しみを感じる東京を少しでも取り戻したくて）
その時代性とメッセージ性
東海道五十三次の名所絵で絶賛を博した、風景浮世絵師（名所絵師）、歌川廣重はさらに、この「名所江戸百景」を人生の幕引きの間際で、最高傑作に仕上げた。（ゴッホ、モネ等が模写したことでも有名である）
しかし実は、この風景画シリーズは、従来謂われている、単なる名所絵ではなく、あるメッセージを伝えることが巧妙に仕組まれていたことが、最近さらに明らかになりつつある。それは、江戸庶民に幕末の安政大地震からの復興と未来への希望をあたえる、メッセージであった。
まるで今回の東日本大震災により大きなダメージを受けた現在の日本人に対する、勇気づけの手本のようである。今回東京タワーの最頂部が傾いたが、同じように、浅草寺五重塔の九輪（塔の先端部分）も傾き、江戸庶民は不安にかられたのである。しかし、廣重は修復された、五重塔をさりげなく、紅白の配色の中に描いてみせたのである。
又、逆に絵の中では既にりっぱに修復されている「銕炮洲築地門跡」の築地本願寺の大屋根は、現実は未だ、本堂が崩壊したままであった。
このように、メッセージ性を持った絵が多数あることが最近の研究で判ってきている。このシリーズを今この時期に世に問うのは、日本の復興を願ってのことでもあることをここに明記したい。
（謎解き広重「江戸百」　原信田実著　集英社刊）にはより多くの例証がなされているので興味のある人は是非一読をお勧めする。
浮世絵と印象派（その再評価について）
ゴッホのあの色彩感覚が日本人に受けるのは、最盛期の浮世絵である歌川派の色彩感覚が江戸の人々に幅広く親しまれて来たその歴史上の事実から今もって日本人の中に心のふる里を思い起こす作用を及ぼす為ではないでしょうか。
明治以降、反江戸政策の一環の下に低俗視されていた浮世絵の正当評価の価値付けが今以上に必要ではないでしょうか。
「ある意味では、すべての私の仕事は日本美術の上に基礎をおいている」
「絵画は単なる趣味的な分野ではなく、科学や政治といった分野よりももっと賢者であり、哲学者であり、知恵者である。」とゴッホは述懐しています。
（歌川派浮世絵展　創栄出版刊）より
国外にある浮世絵版画数は、国内にあるものの三倍から四倍の数に当たると考えられている。日本人が浮世絵の価値を見直したのは、実に大正期のことであるが、時は既に遅く、現在では海外からの逆輸入が普通になっている。
（浮世絵のことば案内　田辺昌子著　小学館刊）より
現在の楽しみ方（もっと自由に楽しもう）
時代小説を書いている小説家にとって、江戸古地図、細見、江戸百は必携の資料であるという事である。
美術家の赤瀬川さんは、こう書いている。
浮世絵は、まず第一に色である。版画ならではの明快な色使い。しかしもう一つ凄いのが構図である。とくに広重の風景画は目の位置というか、ものごとへの視線の捉え方が凄い。・・・目が眠くなったらおしまいだ。目は覚めて起き上がってこそ、何かが見えてくる。人間の目はただのレンズではなく、目の意欲に点火されてこそ、その能力を発揮する。
（赤瀬川原平の名画探検　広重ベスト百景　赤瀬川原平著　講談社刊）より
江戸文化研究家の田中さんは、こんなにも江戸文化を愛している。
江戸百は、私にとってのヒーリング・アートで、疲れた時に眺めると効果抜群なのである。中でもこの猫（浅草田圃酉の町詣））の姿勢に同化すると、背後に感じるぬくもりの日常から、窓の外に広がる空の彼方まで、その世界の重層的な拡がりに一種の「悟り」さえ感じてしまう。かつての東京は、これほど心が高められほっとする場所だったのかと、その取り返しのつかない今が悲しくさえなる。絵中の彼方の熊手をかついで歩いている人々の列・数軒の明かりの入った家・富士山・夕日の雁の群れ・鷲神社（おおとりじんじゃ）・猫・羽文様の手拭い・蛸唐草の染付けの器・吉原雀を描いた腰紙・かんざし・床入りに使う紙、等を見ることにより、空間と時間のドラマを感じる。つまり、一枚の絵から見るものは、様々な空想、懐古をすることにより経験と情報に比例した楽しみを味わうことができるのである。魂は我知らず別世界に抜け出て行ってしまったようだ。
（江戸百夢　田中優子著　朝日新聞社刊）より要約
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